名古屋高等裁判所 昭和25年(う)2187号 判決 1951年4月07日
控訴人 被告人 石田力雄 外一名
弁護人 松浦是 外一名
検察官 神野嘉直関与
主文
原判決を破毀する。
本件を名古屋地方裁判所に差し戻す。
理由
弁護人松浦是、同鬼丸義斎の控訴趣意の要旨は、原判決は事実の誤認並に法令の解釈を誤つた違法がある。即ち原判決挙示の証拠によるも原判決認定事実を認定することはできない。又商標法の所謂商標は、自己の営業上の商品を他の同種の商品より区別せんため使用せんとする商品の標識である。本質は、商品自身の目標で一般より彼此相紛わしく互に誤認混同を防止するにある。従つて別異でない同種の商品に類似、摸造のマークを附着せしむるも商標権の侵害とならないと謂うにある。
よつて右の論点を判断する前に、職権により、原審の訴訟手続を検討するに、被告人両名に対する本件起訴状の公訴事実を見るに、三個の併合罪を明記し、各罪とも、日時、場所を異にして居て、その内容は、安藤十四子、藤田四郎、柴田一三の三名に対し、各別に、シンガーミシン会社の登録商標であるSINGERに類似する商標を使用した同社製品に類似した裁縫用ミシンアームベツト各一個を交付したと謂うにあつたところ、検察官は、原審第七回公判期日に右訴因を予備的に変更し、その訴因は「昭和二十三年四月頃、名古屋市西区庄内通り一丁目二十一番地において、太田好男に対し、シンガーミシン会社の登録商標であるSINGERに類似する商標を模造せしむる目的を以てその模造の用に供する他人の登録商標と類似の商標の転写マーク一枚を交付したものである」と謂うにあつて、起訴状記載の公訴事実と前記予備的訴因の事実とは、同一事実であるとは認め難い。即ち予備的訴因によつて表示せられた犯罪は起訴状記載の公訴事実に表示せられた犯罪の準備的行爲に該当するもので、その行為が一般に起訴状記載の犯罪事実に包含せられるものと認めることは出来ないもので、全く別個の事実関係に基くものである。果して然らば、原審が右の予備的訴因の変更を認め、これを有罪とし、起訴状記載の訴因について何等判断をしなかつたのは、起訴せられない事実に判断を為し起訴せられた事実に対する判断を遺棄したことになるので、破棄を免れない。
よつて控訴趣意に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三百九十七条第三百七十八条第三号により、原判決を破棄し、同法第四百条により、本件を原裁判所である名古屋地方裁判所に差し戻すことにする。
よつて主文の通り判決する。
(裁判長判事 赤間鎭雄 判事 竹田哲 判事 鈴木正路)
(弁護人の控訴趣意は省略する。)